別の人の彼女になったよ
この歌の、このカバーは沁みる。
イヤホンでカフェの喧騒のなかで、本をめくり、
あの頃を思いながら。
最近、アメ村のライブハウスによく行くようになったの。
そう言うと、意外そうな顔であまりミナミの方には来ないと思ってた。と、返された。
眼鏡に映るパソコンの画面では、いくつもの数字や文字が並ぶ書類が見える。
程よい雑音のように、話しかけてくれる方が仕事が捗ると言うけれど、きっとそんなのは建前だ。
彼女に構えないくらい、忙しいなんて。物語のなかにしか居ないと思っていた。
気づかない振りで続ける言葉は返事がなくても気にならないような他愛のないこと。
「学生の時によく行くくらいの場所だとは思うけど、ふとした隙間にあるお店が可愛かったりして、宝探しみたい」
何でも楽しむのはいいところだよね。と言って、頭をくしゃりと撫でて、またパソコンの画面に視線を戻す。
彼の膝枕でごろごろと寝転がりながら、テーブルと腕の隙間から顔を見上げる。
きっと一緒にライブに来てくれる?とお願いしたら、笑いながら仕事が早く終わればと返してくれるんだろうけれど、そんな日は殆どない。
毎日、終電で帰ってくるくらいに仕事が捗っていないと言うけれど、彼は丁寧すぎるところがあって。
優しさの裏返しが不器用な形で仕事に現れてしまっているだけなのではないかとも思う。
自然と連絡を取らなくなった彼と離れて、ある日見かけた写真で彼氏ができたんだね。と言う言葉に否定も肯定もせず。
流していたら、いつの間にか時の流れと一緒に流れていった。
おやすみ。
その響きが少しだけ彼の声と似ていて、
哀しく………優しく響いた。
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