遠距離恋愛

付き合いだしたその日から、遠距離になることは分かっていた。そのせいか特別であるという感覚もないまま、時間を共有していた。
環境も距離も普通ではないのだけれども、それがかえって特別さを違和感のないものにしてくれていたのだと思う。
共通することは少ないけれど、その中で彼の仕事のことや私の趣味のこと、お互いにとりとめもなく話される日常の普通さが何より幸せだった。
電話の向こう側から聞こえる、柔らかな声がとても幸せな音だった。

二人で行った京都の外れ。紅葉の中で小さな神社を見つけた。地元の人に愛されていることがわかるような、掃き清められた参道。風が木々を揺らして、さわさわと音をたてている。

少し前を歩く彼が「お詣りして、おみくじでもひいてみよっか?」と言うので、私も何となく「思い出にひいてみたい!」と返す。
「ふたり、共通のものがおみくじだなんて、なんだかほっこりするね」なんてのんきな会話も、どこか他人事のようだ。
「お揃い、嬉しい」って彼の言葉もどこか可愛らしい。

小さな赤い鳥居をくぐり抜けて、神様の前で、今だけは彼のことを、彼だけのことを祈る。
大きな手のひらをぴったりと合わせて、細い目をとじて祈る彼の横顔をじっと見つめる。
祈り終わった彼に「みとれちゃった」って言うと、笑って「逆じゃない?ふつう」なんて、まるで普通の恋人同士のような会話だ。


おみくじ、ななばん。
7っていい数字やんね、って言ったら、僕にとって今一番欲しい問いの答えが良ければそれでいいよ。笑って引き出しから出したそれの、恋愛のところは見ない。お互いにそれが暗黙の了解のようになっていて。
「どんな結果やった?」
「調子のったら駄目だってさ」
「そうなん?」
「気を付けます」
そっと折り畳まれた、神様からの手紙は私からは見えない。
「仕事、どうやって?」なんて茶化しながら聞いた。
彼からは「仕事は相変わらず絶好調」って笑顔が返ってきたけれど。

大きな公園のはしっこに子供が遊べる遊具と一緒に遊園地の身長はかるやつ、みたいなのがあって。彼が昔、これではかってもらったなーなんて嬉しそうに並ぶけど、もちろんそんなところに収まるはずもなくて。
一方、153センチの私は彼の肩くらい。ってことは、手を繋いだらちょうどいいけど、腕を組むにはちょっと小さいくらい?ってことが分かった。
ショーウインドウのガラスですら、怖くて二人並んでいる姿をみることは出来ないから、彼との身長の差がこんなにもあるだなんて知らなかった。 

当たり前だけど、外では手は繋げない。繋がない。
いつも何かあるときには視線を合わせるために屈んでくれてたりするんだなぁって。
その指を、手を、じっと見つめる。
「なにみてんの?」
「て」
「いや、だからなんで手をみてんの?」
「好きだなぁって思ってたの」

『雪を掬いとった赤い君の指先を
僕の両手で温めるのに
理由なんか  探してる』

そんな歌の歌詞を思い出した。
今の君は何を考えてるんだろう。

この旅が終われば、また別々の場所にかえって行く私たち。
待ってる人がいることは、今は考えない。
考えたくない。

***

写真集見た時に書いた、思い出とか理想と現実とを
重ね合わせた感じの文章。


Hina 2018

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